一、南方を守護する朱い鳥

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「あれっ?」  阿鳥は目覚めると、きょろきょろと辺りを見回した。 「もしや、寝てました? 私」  眉をひそめ、信じられないといった面持ちである。無理もない。 「君、憑かれてるっぽいよ」 「うぇっ、全然元気ですけど!?」  ばっと立ち上がり、素足にまとわりついた砂利を払う。 「その疲れてるじゃなくて。まあ正確には憑かれかけてる、か」  戻って来たら来たで、騒がしいこと限りなしだ。  今度は呑気に頭の片側に留められた菫色のリボンの飾りを気にしている。まだ状況がよくわかっていないようだった。 「まぁ事情は、そこの鳥から聞いたよ。解説は途中になってしまったけれど――」 「えっ、朱雀ちゃん喋ったの?」  そうか、そこに食いつくか。阿鳥はあどけない大きな目をさらにまん丸く見開いていた。 「そんなことある!?」  朱雀は細い脚をちょこちょこと動かして先程まで乗っ取っていた少女の身体の後ろへ回った。そして、その足元からこちらを伺うように首を出す。 「おおっ、おおお、可愛い。なんか急に、こんな懐いて……」  と阿鳥は満更でもなさそうだったが、真幌に向き直ると、 「お兄さんひょっとして神から信託受け取れるタイプの霊能者? それとも動物と話せるドリトル先生系?」  真剣な顔をして尋ねてきた。 「違うわっ。俺は宮名木(みやなぎ)真幌(まほろ)。大学生だよ。文学部日本文化学科……専攻は考古学だ」  真幌は一息つくと、立ち上がった。少しふらつく。一気に喋りすぎたか。そろそろ奥へ引っ込みたい気分だ。 「一週間後、同じ時間にまた来な。俺も自分なりに情報を整理しておくから」 「え?」  阿鳥は、何が何だか、というふうに目を瞬かせている。憑依されているあいだの朱雀の声は、どうやら聞こえていなかったらしい。面倒だが、仕方ない。  まだきょとんとしている阿鳥と、その後ろで恐縮している朱雀に向かって、真幌は口角をわずかにつり上げた。 「ちょっと面白そうだからね。君に取り憑こうとしてるその地縛霊の正体、暴いてあげるよ。あと君の前世が誰だかも」
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