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二、前世探訪に関する諸問題
「蘇芳さんの周りで怪奇現象が発生する原因は、蘇芳さんの前世にあるらしいよ。
蘇芳さんが、前世の自分とその行いを思い出して、幽霊との因縁を断ち切ることができれば、怪奇現象は収まるだろうってさ」
目つきの悪い宮名木さんは不機嫌そうな顔で、そんなふうなことを言っていた。
……なんか大変そうだなぁ。
話を聞いた直後に阿鳥の抱いた感想は、そんな的外れなものだった。
しかも朱雀が阿鳥の身体を乗っ取って語り出したというのだ。思わず「あははっ、冗談でしょ」という乾いた笑いが出てしまった。
けれども口をへの字に曲げ眉根を寄せる宮名木さんの蒼白な顔面に、少し赤みが差しているのを見ると、彼が大変不本意ながらも見聞きしたままを語ったのだということを悟らざるを得なくなった。
遅れてやってくる理解とともに、背中に言い様のない寒気が走る。
じっと視線を向けてくるだけの幽霊より、なんの断りもなく身体の中に入ってくる朱雀のほうがよっぽど実害を成す存在のように思えてしまったのだ。知らないあいだに身体を乗っ取られていたなんて、気味が悪い。
ただ宮名木さん曰く、朱雀は阿鳥に取り憑いてるわけではなく、それどころか幽霊から護ってやっていると主張したらしい。まあたしかに、本気で取り憑きたかったなら、無防備な阿鳥の人格などとっくに消え去っていてもおかしくはない。きちんと身体を返してくれるだけ良心的かもしれない。
幽霊に遭遇したのは事実だ。現状ちょっと困っているし、これがずっと続くと思うとけっこう気が滅入る。それを思えば、やり方はやや横暴だけれど、幽霊を追い払う方法を教えてくれた朱雀は、やはり一応自分の味方なのだろう。
宮名木さんは、一週間後にまたここへ来いと言っていた。黒い影――幽霊の正体も、阿鳥の前世のことも、一緒に考えてくれるらしい。
前世の記憶って……世界仰天ニュースかよ。
自分がそんなものを思い出すなんて、ありえないとは思いつつも、ミーハー心が刺激されやすい阿鳥はすでにちょっと、自分の前世を知りたいと思い初めていた。
ひとつ懸念があるとすれば、よく知りもしない男性と、密室とまではいかないけれど閉ざされた空間にふたりきりという状況。よく知りもしない阿鳥の前世を、一緒に探してくれるという宮名木さんの目的も、よくわからない。
友人には内緒にしておいたほうが無難だろう。特に生真面目な沙由紀など心配だからついていくなどと言い出しかねない。
でも人に対して一定に淡白なあの宮名木さんは、阿鳥より朱雀に興味があるように見えたし(それもそれでどうかと思うが)少なくともそんなに危険な人物には感じなかった。
今日が一週間後、ちょうどその日である。
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