二、前世探訪に関する諸問題

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「朱雀は蘇芳さんが生まれたのと時を同じくして目覚めたと言っていた。墓の中に眠っているときから、君を守っていた気がする、ともね。その感覚が正しければ、朱雀は現代に残るキトラ古墳のもの由来である可能性が高いと思う」 「……なんかファンタジックなお話ですね」 「考古学にファンタジーは必要ないんだけどな」  座卓に肘をつき、ため息を漏らす宮名木さん。 「で……つまり、蘇芳さんの前世は現存する朱雀が護っているということから逆算して、キトラ古墳の被葬者という可能性が高くなる、というのが俺の推論」  と締めくくった。 「実感湧かないなぁ」  ふぅ、と息をついてから、阿鳥は湯のみに口をつけた。とても自分自身についての話とは思えなかった。だけど、だからこそ興味をそそられるのも事実である。 「俺自身、前世論なんてバカげてると思うけどさ。朱雀の存在が現実のものである以上、真っ向否定もできないんだよね」  自分で提唱しておきながら、宮名木さんも自分の説を信じることに対して抵抗を感じているようだった。無理もない。けれど阿鳥は、とりあえず概ね受け入れることにして、さらなる手がかりを求めて尋ねた。 「で、誰なんですか、その、私の前世の人は。古墳って偉い人のお墓ですよね。ナントカ天皇? 聖徳太子?」 「この頃の天皇の墓は八角墳。対してキトラは円墳だから」 「違うのかぁ〜」  もしも天皇さまだったら、多少は自慢できたのになぁ(?) 「あと聖徳太子が生きていたのは、キトラ古墳が作られた時代の百年ほど前。「墳」ってのはいろいろ形があってさ」 「ふーん」  と答えてしまってから、これは断じてダジャレではないと心の中で言い訳した。 「古いものは前方後円墳が有名だね」 「あ、それ知ってます。てるてる坊主みたいなやつですよね」 「うん。どちらかというと頭は四角で、後ろが円なんだけど、まあいいか……。古墳時代後期の古墳は円墳。キトラもこれに当たる。天皇でないことはおそらく確定だけど、その当時の皇族か、それと同等の身分を持つ氏族。地方豪族。少なくともかなり身分の高い人物ということにはなるだろう」  ノートの余白に、宮名木さんはぐるぐると円を描く。 「ただ、キトラ古墳に埋葬されたのが誰なのかっていうのは、現在に至るまで特定されてない」 「あ、そうなんですね」  空気の抜けた風船のように、一度高まった期待がしゅるんと萎む。 「候補はいるよ」  そうか、さっき絞り込めていると言っていたっけ。それだけでも聞いておきたい。高校一年生の阿鳥でも知っている歴史上の人物が、含まれているかもしれないではないか。 「日本書紀と続日本紀の中に、キトラ古墳の製造年代に亡くなった約五十人ほどの人物の名前がある。おそらくは、その中に」 「ご、ごじゅ……いっぱいいますね」  その中から正解を見つけ出すとなると、相当大変だ。早くも頭がぐるぐるし出す。しかし宮名木さんが言うには、 「まあいろいろと条件を当てはめていけばもっと絞れるから。死んで古墳を作るほど身分の高い人物ってだけでも、相当絞れるし」  とのことだった。 「まずは――」 「先輩――!おじゃまします先輩――!」  突然、陽気な男の声に静寂が破られた。
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