三、埋葬マイソウル

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 後日、昼間の宮名木家の中庭に、阿鳥と生形は揃っていた。  現在、『飛鳥歴史公園キトラ古墳周辺地区』内『四神の館』という資料館にて、朱雀をはじめとする石室内部の壁画が公開されている。ということで見学に行く。  近鉄飛鳥駅から近い宮名木さん宅に一旦集合して、ここからは車で明日香村の南部に位置するキトラ古墳へと向かう。  宮名木さんは阿鳥の前世的人物のに関して、自分なりの答えを用意していた。 「政治的な問題かな。天皇に逆らったとか。皇族同士の争いとか。民に対する圧制なんかもありえる」 「ぐー」  阿鳥は座卓に突っ伏した。そうだとしたら、どれもなかなかにヘビーな因縁だ。いずれにしろ、どうやら自分の前世は穏やかならぬ人物だったらしいとわかり、複雑な心境である。 「このぐらいの時代って、身分の高い人はぜーたくほーだいでも、農村部の暮らしはだいぶ貧しかったって話だからな。けっこういろんなところで恨み買ってたんじゃね?」  と口を挟むのは生形影史。今日は部活もオフなので、Tシャツにベージュのチノパンというラフな格好をしている。 「私に罪の自覚が足りないっていうのっ?」  こちとら今をときめくJKなのだ。千三百年も前の農民と貴族の確執について、急に当事者意識を持てと言われても困る。  すると宮名木さんが解説を加えた。 「飛鳥に都がおかれた時代は国の仕組みがいろいろ整ってきた頃でもある。一応お偉いさん方は民の生活への負担を減らそうとも考えてたんだよ。『薄葬令』っていう、古墳を小さく作る命令も、その一環だ。それで、権力を誇示するための無駄に巨大な古墳はだんだん減っていった。大仙古墳みたいな大きい前方後円墳は、ずっと前の時代の古墳なんだ」  大仙古墳は知っている。仁徳天皇陵と言われており、長さ五百二十五m、隣県・大阪にある、日本最大の前方後円墳。高校の日本史にも常識レベルで登場する有名な古墳だ。 「明日香村には、その薄葬令のあとにできた古墳が多い。だから身分の高い人のものであっても比較的サイズは小さいんだよ」 「ふーん」  阿鳥はまたダジャレを言ってしまったが、わざとではない。 「……それにしても、蘇芳さんが部室内で霊を見たっていうのは、あまりよろしくない状況だな」 「そ、そうですかね」 「君、知らないあいだに行動領域に侵入されてるよ」  不意に宮名木さんは鋭く目を光らせる。オカルト話をするときは、若干口調がきつくなるので、どきりとしてしまう。けれど、現実的なカタブツに見える彼が、意外にもこういう話を信じてくれるだけでも、ありがたい。 「急いだほうがいいかもしれないな」 「はいっ頑張ります!」  となぜか生形が威勢のよい返事をし、びしっと敬礼ポーズをとった。生形も幽霊を見たことはない。でもその存在を頑なに信じている。彼の場合は、宮名木さんがいると言えばいる、という脳死寸前の思考に基づいた判断なのだが。
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