三、埋葬マイソウル

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 お店の駐車場に、一台の白い軽自動車がとまっている。ちょうどひとりの女性が車に向かっているところだった。 「ちわす」  生形とは顔見知り。阿鳥はぺこりと頭を下げた。 「初めまして、よろしくお願いします、あ、あの、いつもお邪魔してるのに、挨拶せずにすみません」 「いえいえ〜。蘇芳さんね、話は聞いてるわ。真幌の母です」  と、女性・宮名木母は、丁寧に頭を下げた。宮名木さんにも親がいるというのは、当たり前なのだが不思議な感じだった。和装で顔面蒼白、どこか浮世離れした第一印象が強い宮名木さんからは、いつまでたっても生活感を感じなかったからだ。しかし母のほうは対照的で、若々しくて快活さに溢れていた。体格こそ宮名木さんに似て華奢ではあるが、いかにもエプロン姿で喫茶店を切り盛りするのが似合う気さくな女性。宮名木さんはお母さんに生気を吸い取られているのではないだろうか。 「影史またでかくなったんじゃないかぁ? あっははははは」  バシバシと生形のでかい背中を叩きながら笑う母。そのまま、「さあ乗って乗ってー」助手席へと大きな生形を押し込んだ。 「お邪魔します」 「どうぞどうぞー」  阿鳥は、駐車場まで見送りに来た宮名木さんに、後部座席のドアを開けてもらった。庭の外にいるのも珍しい彼だが、やはり、ここでお別れらしい。少し心細い。この先しばらくうるさい生形とふたりきりかと思うと、それだけで若干疲れた心地だ。  今日は営業日なので、母の留守中は代わりに店にいるのだという。 「それじゃ真幌、少しのあいだお店よろしくね」 「宮名木さん、お店番もするんですね」  バックミラーに映った宮名木さんの姿が小さくなるのを見ながら、阿鳥は思わず感心したように呟いた。宮名木母は、 「いやぁ、珍しいわよ。よっぽど私に車出して欲しかったのね。いつもこうやって手伝ってくれたらいいんだけどねぇ」  とあっけらかんと笑う。その底抜けの明るさのおかげで、阿鳥はだいぶリラックスできた。 「ふたりはどういう関係なの? デート……じゃないのよね?」  キトラ古墳まで約1km半の道中、宮名木母はたびたび話しかけてきた。 「あ、はい」  彼女にしてみれば、息子の後輩の男女二名を送迎するというのは、珍しいシチュエーションだと思う。そういった疑問を抱いてもなんらおかしくはない。誤解なきよう、阿鳥はすぐさま否定しておく。 「そっかぁ。影史がついに女の子連れて来たのかと思ってドキドキしたんだけどなぁ」 「違うっすよ、なんつーかその、下見?」  生形はキリッとした顔で言い張る。宮名木母は今にも吹き出しそうな様子だ。 「え、あ、そうなの? 本番の予定はあるんだ?」 「ええ」  ないだろ、というツッコミを、半目になりながら阿鳥はなんとか心の中で済ませた。
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