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先んじて湧いたのは、何故自分が? という疑問だった。
「あんたには助けられないのか。護ってるんだろ?」
「無理だ。いや、まあ、がんばったら無理ではないが、根本的な解決にはならぬ」
「根本的な解決とは?」
除霊かなにかをご所望なら、その筋の人間を当たってほしい。
「俺はあいにく霊媒師じゃない」
しかし、朱雀はさも当然そうすべきというふうに、構わず続けた。
「この娘と、その怪異とが、和解するのを手伝ってもらいたいのだ」
「和解?」
微妙な言い回しだ。思わず聞き返した。
「端的に言えば、霊が追ってくる要因は、この娘の前世にあってだな――」
「誰なんだその前世ってのは」
「はやー! 答えを求めるのが早すぎるわ!」
随分人間的なツッコミが飛んでくる。見た目の神々しさに反して、存外騒々しい生き物だ。
「端的にと言ったのはそっちだろ」
「――それが誰だかわからぬから難儀しているのだ」
と腕組み、朱雀は困ったように目線を外した。少し頬を膨らませる様子など、もとの少女に負けず劣らず表情も豊かである。
「だがこの娘の前世たる人物の犯したなにかしらが起因となって、この世に未練を残した地縛霊のようなものに追われているのは、たしかなんだよ」
つまり前世の所業のせいで、現世でとばっちりを受けているということらしい。因果応報もいいところだ。
「そのなにかしらがなになのかはわからないのか」
「ああ」
「で、この世に未練を残した地縛霊のようなものの正体もわからないとか?」
「わからぬ」
あっけらかんと言ってのける朱雀に、真幌はやや呆れ始める。
「何もわからないんだな」
「うぐぅ……」
一方で、困っているのは本当らしい。先程までの堂々たる風格はどこへやら、朱雀はしょんぼりとうなだれてしまった。ちょっと言い過ぎたか。
「なぜかはよくわからんのだが、私は生まれながらにしてこの娘を護らなければならない決まりなのだ。もしかすると、前世たる人物が生きていた時代、墓の中で眠っているときから、ずっと見守っていたのではないかと思う。しかし意識が目覚めたのはつい最近。この娘の生まれたのといっしょであるがゆえ、その時代のことについては何も覚えておらぬ。ただ、あの地縛霊のことだけはなんとなくわかる。阿鳥に因縁つけて付き纏うつもりだ。前世の行いのせいで、そんなの不憫だ。なんとかしてやりたい」
朱雀は自分の――少女、阿鳥の両手に目を落とす。
「阿鳥が生まれ変わる前の自分のことを思い出せれば、その霊との因縁を断ち切るか、和解して成仏するなり決着をつけられると思うのだが、これも全く気付く素振りはない。私には思い出させる方法がないし」
それで手がかりを求めて来たというのか。
真幌は、この荒唐無稽なオカルト話を黙って聞いていた。
バカバカしい。有り得ない。だけど目の前の朱雀の存在は認めるほかない。憑き物が実在する現象であることも真幌は知っている。阿鳥の自演という可能性を考える。こんな卓越した演技ができるほど器用そうな子には見えなかった。自演だとしてもここまで気を狂わす理由がない。
状況的に判断して、全ては真実とみて間違いないだろう。
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