親父と呑む。

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「大っ嫌い!」という言葉がキーンと耳に響いて、瞬間、全身から力が脱け落ちたようにも思えた。 自分の部屋へバタバタと駆け出して行く娘の足音を聞きながら、呆然としてしばらくその場に立ちすくんでいたら、幼い頃に『パパ、大スキ。おっきくなったら、パパのおよめさんになる』と言われたことが思い出されて、涙がつと頬をつたった。 そうしてふいに(そうか……)と、感じた。 俺がかつて親父に同じように「大っ嫌いだ!」と言った時、追いかけてきたりしなかったのには、きっとこんな切ない想いがあったからなのに違いなかった。 「そうか……親父も、あの時悲しかったんだ……」 一人呟いて寝室へと戻る。さほど眠れないまま翌朝を迎えて、久しぶりに俺は親父に電話をしようかと思い立った。 「親父、今夜二人で飲みに行かないか?」 「……二人で? なんだ急に」 電話口で訝しそうに親父が言う。考えてみれば、親父と差しで飲んだことなど一度もなかった。 「飲みたくなったんだよ。いいだろ?」と伝えると、親父は多くを聞かずに「ああ、わかった」とだけ答えた。 待ち合わせの場所と時間を決め電話を切ると、はぁーとため息が漏れた。 親父と二人で話すことなんてあるだろうかとふと思う。だがこのもやもやと胸に霞がかったような虚しさは、親父とでなければ晴らせないような気がした。
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