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──駅前にあるカウンターだけのこじんまりとした居酒屋で、親父と並んで腰をかけた。
何を話したらいいのかわからなくて、無言で熱燗を幾杯も空ける中、
「……なんの話があったんだ?」
と、酔って赤ら顔になった親父が切り出した。
「うん……」と頷いて、口の中に残る酒をごくっと飲み干すと、「実は娘に、『大っ嫌い』と言われた……」と、話した。
ふっ…と親父が口元で小さく笑って、「おまえも言われたか」と、呟いた。
やっぱり親父もかつて俺が言った時のことを忘れずに憶えていたんだと思う。
「ああ、言われた。あれは、辛いな…」
親父に酌をしてそう口にすると、
「辛いだろ…」
という言葉とともに、俺の方にも徳利から酒が注がれた。
「……。……自分が言われてみて、あの時に親父がどういう気持ちだったのかが、初めてわかった……」
お猪口に口を付けて言う。
「ふん…今さらか」親父が酒を啜ってごちると、
「あの時、まさか息子のおまえに大っ嫌いだと言われるとは、微塵も考えていなかった。あれほど心配していたのにと、親の気持ちはやはり子供には伝わらないんだな…と、無性に虚しくなった」
そう話した。
ああ、俺と同じだと思う。
俺も、娘に『大っ嫌い!』と言われた時、そんな思いだった……。
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