25人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「……親父、」
「なんだ?」
「……あの時は、ごめん」
「……今さらだろう。だから」と、親父が目尻に微かに滲んだ涙を節くれた指でぐいと横に拭った。
「いずれおまえの娘のみさとちゃんも、父親の思いっていうのをわかる時が来るだろうから」
「……ああ」と、頷く。
「俺も、昔は父親にたてついて、『大嫌いだ!』と言ったことがあったからな……」
「……親父も、爺ちゃんに言ったことがあったのか」
空になった徳利のお代わりを頼んで口にする。
「ああ、父親っていうのは、大概因果なものだな…」
「……因果か。確かに母親に比べると、距離も取られやすいからな。子供のことを心配しているのは同じなのに……いや、距離がある分だけ余計に心配しているところもあるのにな…」
俺の話に親父は酒を一口含むと、
「おまえも、親父になったんだな」
と、いつの間に皺の増えた顔に、薄っすらと笑みを浮かべた。
「親父になったって、なんだよ…」
「ちゃんと父親になったのかってことだ。いつまでも子供だと思っていたのに」
「そうかよ…」と軽く笑って返して、二本目の徳利から親父のお猪口に酒を注ぎ足した。
「こうやって男同士で呑むのも、悪くないな」
「男同士じゃない、親父同士だ」
親父の言葉に、はは…と声を上げて笑い、
「じゃあ親父同士、乾杯をしようか」
お猪口をカツンと突き合わせると、
いつか……こんな風に俺も娘と呑む日が来るだろうかと、親父と酒を酌み交わしながらしみじみと感じていた……。
終
最初のコメントを投稿しよう!