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「失礼ですが、そのしゃべりかたは、いつ頃から、そのように?」
「しゃっべりかた?」
「そうです。アマガミサマはいつも、もっと流暢にお話になります。そのしゃべりかたは、不自然なように思えます。それはいつ?」
「いっつ?うーん、ああっ、ちょうど、1っかっげっつまえくらいだっねえ。知らっない、かみさまっがさ、こっこにきて、そっれで・・・。あっれ、あいつ、そういっえば、どっこいっったんだっろ」
「アマガミサマ、その神様のお名前は」
「アマッガミっていってったよ」
「アマガミ?」
「そっう、アッマガッミ。いっしょっのなまえだったかっら、なんっか、うれっしっかったなあ」
アマガミ?
ぼくはその名前を聞いて、首をかしげた。雨をつかさどるアマガミサマと、同じ名前の神様、アマガミ。アマガミ?
「も、もしや」
彼女はそういうと、何かを察したのか、アマガミサマの方に両の手のひらを向け、何やら呪文のようなものを唱えだした。
雨音も負けない大きな声で、彼女は何やら不思議な言葉を唱えていた。
そして、手の形を変え、今度は何かをひねるような手つきになると、
「失礼いたします!」
そういって、祠の中に手を突っ込んだ。
「ふわっ」
アマガミサマが素っ頓狂な声を出して叫んだ。
彼女の手が、祠のなかに突っ込まれている。
彼女は呪文を唱えたまま、何かを引きづりだすように、力を込めていた。
「しんのすけ!」
「はいっ!」
彼女が突然、ぼくの名前を呼んだので、ぼくはあわてて返事をした。
「こっちに、きてっ」
絞り出すような、辛そうな声で彼女がそういったので、ぼくは彼女のもとに走っていった。
彼女のすぐそばにたつと、彼女は何かをつかんでいるようで、その手の中には白いもやもやとしたものがあった。
それはアマガミサマの祠の中に続いていた。
「引っ張って」
彼女がそういったので、ぼくは彼女の手をつかみ、その白いもやもやを一緒に引っ張った。アマガミサマの中心からのびる白いもやもやは、引っ張るたびにどんどんと長くなっていった。
「もう少し、だから」
「うん」
彼女の声にぼくはうんと力を入れた。白いもやもやが段々と細くなっているのがわかった。もうすぐ、引っこ抜けるだろう。
「もう少しっ」
ぼくがそう言った瞬間、白いもやがアマガミサマから引っこ抜けたので、ぼくたちは支えを失い、わあと声を出しながら、後ろに倒れこんだ。
その時、そのもやもやがすっとぼくの口のなかに入っていくのを見た。
そして地面に倒れこんだ拍子に、ぼくはそのもやもやをごくんと飲み込んでしまった。
「アマガミサマ!」
彼女はそんなぼくには目もくれず、すぐに立ち上がると、アマガミサマの方へ駆け出していった。
「アマガミサマ、いかがでございますか」
「いやー、すごくいいよ。なんだか、もやもやが晴れたようなそんな気がする」
「本当ですか?」
「ああ、これなら天気を操れそうだ」
アマガミサマはそういうと、
「えいっ」
と高く声を上げた。
それを合図に、空を覆っていた分厚い雲は一瞬にして消え去り、ぼくたちに久しぶりの太陽の光が降り注いだ。
「ああっ」
ぼくはその眩しさに目を覆った。久しぶりの光は目に刺さるようでとても心地よかった。
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