アマガミ

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「雨がやまないのです」  村人たちがそう言いながら。彼女の家の前にごった返していた。 「このままでは畑が水につかって、作物が全滅してしまいます。どうか、お力を貸してください」  彼女は村の長の娘の。ぼくと同じ年の女の子。彼女の家計は代々、雨をつかさどる神に仕えていて、その声を聞き、村の願いを届ける役割をはたしていた。 「わかりました」  彼女はそういうと、立ち上がり、外に出た。それを皆が声をあげながら見送った。何とかしてくれ。そう叫ぶ村人たちの声が響いいた。彼女はひとり歩きだしていったので、ぼくは気づかれないようにそっとついていった。  少しだけ歩いて、カノジョガぼくに気が付いているのは知っていたが、それに関して彼女が何も言わなかったので、まあいいかと思った。  今思えば、これがすべての間違いだった。  彼女は山をずんずんと登っていき、一番高いところの祠の前で止まった。その祠は、鬱蒼と茂った森の中で雨に打たれ、どこか寂し気な雰囲気を醸し出していた。  彼女はゆっくりと手を合わせ、地面に膝をついた。  着ていた服には泥がつき、からだじゅうに雨が降り注いでいた。  彼女はそうして、祠の前で頭を深々と下げた。髪の毛が地面に当たりそうなほどだった。 「アマガミサマ」  彼女はそう小さくつぶやくと、合わせた手をゆっくりと高く上げていった。一番高くまで腕を伸ばすと、彼女はまた、 「アマガミサマ」 とつぶやくと、今度はゆっくりと腕を下ろしていった。  彼女はそれを何度も何度も繰り返していた。  アマガミサマ。彼女の儀式を見るのは、これが初めてだった。なんとなく近寄ってはならないと暗黙のルールのようなものがあったので、彼女がこの祠に行くときには、極力近づかないようにしていた。 「お声を、お聞かせください」  彼女はそういうと、今度はゆっくりと立ち上がり、祠に向かって歩き出した。地面についていた膝には、泥がたくさんついていた。雨が彼女のからだに、痛いほどに、降り注いでいた。 「アマガミサマ」  彼女はそういうと、祠の前でもう一度深く頭を下げると、祠の扉にゆっくりと手をかけた。  ぼくはそれに目を見開いた。  ゆっくりと祠の扉が、開かれた。
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