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本音
プルルルルルル…。
作業に熱中していると、突然電話の着信音が鳴った。
スマホを開くと、その画面に映ったのは素くんの名前。
昼間のこともあってか、電話に出る手が少し震える。
「もしもし?今時間大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。どうしたの?」
「2人で仕事をするにあたって、ちゃんと伝えておかなきゃってことがあって電話したんだ。」
改まったような声色の彼に構えてしまう。
それでも、仕事のために頑張っている彼の姿を目の当たりにした私は、ちゃんと聞かないといけないという使命感に駆られた。
「俺、言葉が上手くないけど、不器用なりに頑張って伝えるから聞いて。」
「わかった。」
珍しく彼の必死さが伝わってきてソワソワしたが、話に集中しようと背筋を伸ばした。
「昼間、昔話したでしょ?」
「うん。」
「その時、直の顔が曇ったのすぐにわかったよ。その理由も。」
「じゃあ、なんで話を続けようとしたの?」
あぁ、やってしまった…。
自分を守るために、話を遮ってしまうのは私の悪い癖だ。
それから間もなくして、電話越しに彼の困ったような声色が響いた。
「直が心配だったからだよ。今にも崩れ落ちてしまいそうで。」
「うそだ…。」
頭の中が整理しきれずに、薄っぺらい言葉しか出てこない…。
「わざわざ電話してまで嘘ついてどうするよ。」
「いや、まぁそれはそうかもだけど…。」
そして、彼はついに話の核心に触れ始めた。
「直のおでこにニキビがある時って、必ず悩み抱えていただろ。」
「なんでそれを…。」
強くいたいと思っていたはずなのに、彼には弱い部分を見破られていたみたいだ。
言葉の端々に動揺が滲み出る。
「親同士も仲良かったから、直から聞かなくても親から知ることもあったし。そうじゃなくても直はわかりやすかったし。」
「一言余計…。」
「ごめんごめん。でも、間違ってないだろ?」
「まぁ、うん…。」
私は否定するのも面倒になって素直に認めることにした。
「ニキビがあるなって思ったら、次の日同級生のケンカの仲裁してるわ、またある時は親の離婚の報告受けるわで、ニキビがあるってことはそうなんだなってすごい心配になった。」
「それは、ごめん…。」
「だから、今回も追い詰められているんじゃないかって思ったんだ。つまり…。」
彼が深く息を吸う音が聞こえて、私は耳を澄ませた。
「俺を頼って。1人で抱え込まないで。直のこと信頼してるから。何も心配しないで大丈夫だから。」
予想外の優しすぎる言葉に、気づいたら涙が零れていた。
そして、今まで自分が思っている以上に気を張っていたことを自覚して、自然と感謝を口にしていた。
「ありがとう。」
彼の言葉を聞いて、私の心はとても軽くなった。
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