忘れていたもの

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途端に周りの状況が一変し、昨夜のお城の光景になった。 シソテレラの前には王子様がいた。 時計台の針は十二時を差している。 鐘が鳴り終えたら、魔法が解けて、美しいドレスも全て無くなり元のボロボロの自分に戻ってしまうのだ。 シソテレラは、お城の階段にガラスの靴を残したまま、駆け下りた。 すると追いかけてきた王子様が、 「頼む、待ってくれー!」 階段の上から呼んでいる。 シソテレラは意を決して足を止めると、振り向いた。 その時、彼女が見た光景は…… 笑顔の王子様と、その頭上の、実に美しい星空だった。 いくつかの流れ星も見えた。 「なんて美しい……まさに星降る夜に……私は幸せになれる。 最高のシーンだわ」 ふと見ると、王子様がすぐ横にいて、 「さっ、捕まえたぞ。結婚しよう」 すると、まるで祝福するかのように大輪の花火が打ち上げられた。 「なーんて、ただのオトギ話じゃん」 下の方から不気味な声がした。 ドーン! その瞬間、王子様も流れ星も――止まった。 「えっ」 シソテレラは思わず下を見た。 彼女の手に、ガラスの靴があった。 「あっ、忘れてた――はくの」 ――おしまい――
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