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ベンジ
ベンジ、と呼ばれるオオホタルイカがいる。
体がひとまわり大きいそいつは、イカ達のリーダー的存在だった。
餌をもらうと触手を揺らしたり、体を光らせたりと、愛嬌がある。
ベンタによく懐いているようなので、弟分ということで、ベンジ。
パルコ博士がつけた名前なので、ベンタも文句は言わなかった。
イカの発光器官から、発光体を作り出す研究は成功しなかった。
消費する熱量の割に明るさは強いが、制御が難しいのだ。
イカがどうやって任意の部位を発光させるのか、仕組みが分からない。
開発に成功したのは、発光するインクくらいのものだった。
残念なことに暗闇の中で淡い光が見える程度なので、需要は限られていた。
一方、予想もしていなかった方面で多大な成果があった。
ベンタの何気ないひと言が、きっかけだ。
「こいつら、ベンジを中心にマスゲームしてるみたいに光りますよね」
博士はメガネの曇りを拭きとって、水槽全体に注目した。
8杯のイカが、ベンジの発光に呼応するかのように、光を明滅させている。
胴体の側面、触腕などを光らせ、あたかも会話しているかのようだ。
発光パターンは、数学者コンウェイの「ライフゲーム」に似ていなくもない。
「もしかすると発光によって、情報の伝達が行われているのかも」
高速・低燃費の生体計算機開発に繋がるかもしれなかった。
「折り入って、お願いがあります」
パルコ博士はベンタの手をとって、強く握りしめた。
さらに多くのイカを捕獲、そして飼育して欲しいという。
こうしてベンタは契約期間をさらに延長することになった。
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