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トリコ
日本海で異変が起こっているという。
初めは漁師の間で、噂になっている程度だった。
「今年の夏は、イカがばかみたいに光りやがる」
困ったことに漁船が近づくと海面が規則的に明滅し、イカが逃げてしまう。
漁獲量は過去最悪の数字、ということだった。
パルコ博士とベンタは顔を見合わせ、ベンジの関与を疑った。
その頃、日本海全域が不規則で様々なパターンで明滅するようになっていた。
マスコミが連日のように報道したため、世界中の研究機関や諜報機関、
システムエンジニアや暗号解読マニアなどが、パターン解読を試みる。
ついには世界有数のスーパーコンピューターまでもが、導入された。
「そもそも意味があるかどうか分からないのに、ご苦労さんだよな」
ベンタは同意を求めたが、パルコは食い入るように画面を見つめている。
彼女の返事はなかった。
ひと月経っても光の明滅パターンは解明されず、謎は謎のままだった。
ある日、ベンタは思い切って声を掛けた。
「海へ、あいつらの様子を見に行きませんか」
パルコ博士はこのところ、何やら思いつめた様子だったからだ。
ふたりは先月の、あの夜のように防波堤までドライブした。
月のない夜だった。
防波堤から見える範囲内、一面の海が、青い光の点で埋め尽くされていた。
「空には満点の星、海にも青く燃える星」
パルコ博士は、「詩人ね」と、ため息とともにささやいた。
その途端、星々の中に黒い影が立った。
暗闇に慣れた目に、いきなりフラッシュライトを浴びせられ、目が眩んだ。
気がつけばベンタは頭に袋のようなものを被せられていた。
すぐ近くで、くぐもったパルコの叫び声がする。
なんとか現状を打開しようと、手足をやたらと動かす。
つかみ掛かってくる手を一度は振り切ったが、すぐに取り押さえられた。
腹と頭を思いっきり蹴られて、ベンタは気を失った。
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