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カクゴ
気がつくと両手両足を縛られて、ボートの上だった。
「よかった、ベンタさん。生きてた」
隣には、同じように縛られたパルコ博士が舷側にもたれかかっていた。
「私達、誘拐されたみたい」
川下りか、渡し舟に使うような屋根のないボートには、4つの人影があった。
ウェットスーツのようなものを着ているらしく、全員が黒ずくめだ。
誰も、ひと言も発しないので、どこの国の者か分からない。
「ベンタさん、どうなってしまうのかしら」
「だいじょうぶ。きっと助かるから」
波がかき混ぜられるせいか、航跡に沿って渦巻く青い光が尾をひく。
この小さな船で、富山湾の外に出ることはないだろう。
どこかでもっと大型のものに乗り換えるはずだ。
その際には交渉でもなんでもして、せめて彼女だけでも助けたい。
ベンタは命を懸ける覚悟を決め、鼻からふとい息を吐いた。
パルコが小声で囁いた。
「ベンタさん、あなたは私が守るから」
「え? 俺がパルコさんを守る……じゃなくて」
「私、イカコンのことで誘拐されたんだと思う」
彼女の考えでは、「用無し」の彼こそ始末される恐れがある、という。
「言葉が通じる相手なら、いいけど」
イカの飼育はこの人じゃなければ出来ない、と交渉してくれるらしい。
言われてみれば、ベンタは交渉のためのカードを持っていなかった。
彼の意気込みは一夜明けた風船のようにしぼんだ。
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