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イカリ
沖には星空を黒く塗りつぶす大型船が待っていた。
海面近くのボートからは船腹が崖のようにそびえて見える。
縛られたまま、ここを登るのかと案じていると、ワイヤーが降ってきた。
どうやら船ごとクレーンで吊り上げるつもりだ。
黒ずくめの4人が船体にワイヤーを取り付ける作業をしている。
ベンタはなんとか脱出できないかと、周囲を見渡した。
沖のこの辺りでは、海面の青い光の方が、星の数よりも多い。
もうすぐ彼は、ここへ突き落とされるかもしれなかった。
両手両足を縛られたままで、陸まで泳げるとは思えない。
「イカは恩返しなんて、してくれないよな」
イルカだったら、背に乗せてくれたかもしれないのだが。
異変が起きた。
周囲の海が、大型船を中心に同心円を描く、青い光の帯で彩られたのだ。
「ベンタさん、なんでしょう」
「発光現象については、パルコさんの方が詳しいんじゃないの」
まるで弓道の的みたいに見えたが、イカ達の真意は分からない。
そもそも射るべき矢がないだろう。
黒い4人組も相当慌てたようで、耳慣れない言語で喚き立てた。
まるで雷が落ちたようだった。
突然の衝撃、空気の裂ける音、熱、光、それらが一気に襲ってきた。
満天の星空から、何かが降ってきて、大型船にぶち当たったようだった。
ボートが大きく揺れ、船べりに立っていた4人は海に投げ出された。
轟く音で大気は充満し、四方八方から全身を叩いてくるようだった。
その中でベンタは必死に体を動かした。
パルコに覆いかぶさって、ボートから転落しないように押さえ込んだのだ。
天から降ってくる星の矢は、2回、3回と大型船を貫いた。
「ベンタさん、船が、溶けてる!」
首を捻って上を見ると、大型船の舷側が赤熱化して溶け出し、穴が開いていた。
「ここを離れないと。パルコさん、船底でじっとしていて」
ベンタはともまで芋虫のように這い進んだ。
上から人々の悲鳴が降ってきたが、彼はわざわざ振り返らなかった。
縛られたままの両手でエンジンを始動する。
衝撃でワイヤーの外れたボートは、勢いよく前へ飛び出した。
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