水神様と鎮魂の私雨

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あの山を見るのは、何年ぶりだろう。 俺の故郷は、小さな村だった。何も他所に自慢できるところは一つも無い、ど田舎といってもいい場所。 仕事の多忙さもあったが、面白味の無い場所に、わざわざ帰る事も無いと思っていた。 延々と続くんじゃないかと思うような、変わり映えの無い田園風景。 このまま農道を抜ければ、目的地に着くはずだ。 「オサムちゃんかい?」 田んぼで作業をしていた一人が、俺の名前を呼んだ。 近所に住んでいたおばさん。 よく家の畑のきゅうりを貰ったっけ。 「おばさん、久しぶりです。」 「本当にねぇ。ずっと帰って来なかったってぇのに。一体今日はどうしたんかね?」 「いや、なんかニュースになってるって知って。」 そう言って山の方を見やった。 頂上辺りに、滝のような雨が降り注いでいる。 何とも美しいが、異様な光景だ。 「あぁ、あのお山かね。いつだったか、10日くらい前から、山の頂上にだけ、ずっと雨が降るようになって、おばちゃんもびっくりしたよ。ニュースになってから、見に来る余所者が増えたね。煩いったらないよ。」 「……おばさんは、あの山の雨を見ても、何とも思わないんですか。」 「んん?まぁ、不思議だとは思うけどね。皆そんなもんじゃあないのかい?……おや、オサムちゃん何だいそのお花。誰かにやるのかい?」 おばさんは、修の抱えている花束に、今さらながら気づいたようだ。
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