水神様と鎮魂の私雨

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「これは、墓に供えようと思って。好きな花だったから。」 「?誰の好きな花なんだい?」 このおばさんは、本当にわからないで聞いているのだろうか。 「え……誰って、雨音ですけど。」 「雨音……?あぁ、 供物にされた、お前の妹か。」 あっさりと、おばさんは言った。 興味の無くしたような無表情で、何の感情も無く。 言い方にかちんとこなかった訳じゃない。 本当は、今すぐにでも怒鳴りたい。 殴り飛ばしてやりたい。 しかし、俺は一礼して、その場を去った。 村の人間に、何を言ったって無駄だ。 昔から、この村には水神様がいて、乾いた土地に雨を降らせてくれるという言い伝えがあった。村の人間はその言い伝えを、完全に信じ混んでいたし、年に1度は水神様を崇める祭りを行っている。 そして、村に日照りが続くと、供物として村の人間を差し出す事もあった。 別に殺す訳ではない。 くじ引きで決まった子供を、水神様の石に縛り付けて一晩放置する。朝には、子供を家にちゃんと帰してやる。 しかし、雨音は病弱な子供だった。 たった一晩のうちに、病状が悪化し、朝に村の人間達がやってきた時には、息を引き取った後だったのだ。 余程苦しかったのか、雨音は体をかきむしった痕や、縛り付けた縄を解こうともがいたであろう痕跡が、しっかりと残っていた。 しかし村の人間は、罪悪感を抱くどころか、悲しみもしない。むしろ、雨音がいた事さえ忘れてしまったかのよう。 雨音の死後も、毎年お祭りは行われ、以前までより活気に満ち溢れているようだった。 屋台も増え、太鼓の演奏や神輿まで、今までより豪華な祭りに変わったのだ。 水神様を楽しませるように。 怒らせないように。供物を捧げる事がないように。殺されないように。 殺したのは、お前らだろうが。 俺は憎くて憎くて、今にもこの連中を殺してしまいそうで。 それが恐ろしくて、逃げるように遠方の高校に進学し、そのまま就職した。 それから帰る事は滅多にない。雨音の墓に花を供えたり、線香をあげてはすぐに帰っていた。 しかし、今日は違う。 俺には、やらなければならない事があった。
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