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この農道をまっすぐ進んだ先に、綺麗な小川が流れている。
子供の頃はよく、ザリガニやオタマジャクシを、捕まえて遊んだ場所。
そこに水神様の石がある。雨音が縛り付けられた場所であり、今はその隣に雨音の墓石が建てられている。
いつもなら、誰もいない場所なのだが、今日は先客がいた。雨音の墓の前に、じっと佇んでいる人影。
父さんだろうか。いや、うちの家族も村の人間と同じで、死んだ後も何事もなく、いつも通りの生活をしていた。まるで最初から一人っ子だったかのように、俺に接してきた。あんな奴等が、今さら墓参りに等来るものか。
更に近づいたところで、人影の招待がわかってしまった。
人の形をしたそれは、平安時代を思わせるかのような、古めかしい着物を纏っている。何とも珍妙というべきか、時代を間違えた格好なのだが、それ以上に奴の東部に驚いた。
光り輝く翡翠色の鱗。黄色い瞳。細く赤い舌が、ちろちろと動いている。
蛇。
俺が1番、苦手とする生物の頭部。
今にも回れ右して、駅まで走り出したくなった。
しかし、蛇頭の方が、俺に気づいてしまった。そして、更に驚くべき事に、奴は俺に話しかけてきた。
「木村修様ですね?」
シュウシュウと息づかいのような音を出しながら、流暢に人間の言葉を話す。しかも、俺の名前を知っているだなんて。
「そ、そう……ですけど。」
余りの恐ろしさに、敬語になってしまった。
「水神様が貴方をお待ちです。私に着いてきていただきますよろしいですかな?」
「み、水神様?俺を待ってるって、一体……。」
やはり、水神様は、存在するのか。
目の前の化け物が、その証拠みたいなものだろう。
「はい。あの山の頂上の社にて、貴方様を待っております。」
蛇頭の化け物が、まっすぐに山の方を見つめながら言った。
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