4人が本棚に入れています
本棚に追加
俺がやはりと思った事には、理由がある。本来ならこんな現実味の無い話を、信じたりはしないのだ。
もう、10日になる。
可笑しな夢を見た。
俺は水の中を泳いでいた。川なのか、海なのかさえわからない。ただ水だけの世界。
辺りは静かで、水の中はとても澄みきっていて、綺麗だった。
何故か呼吸も出来る。穏やかな気持ちに包まれながら泳いでいると、懐かしい声が聞こえた。何年経っても忘れはしなかった、あの大人しそうな声。そうだ、まだあの子は中学生だった。
『お兄ちゃん、助けて。こっちに来て。』
「雨音?雨音なのか?どこにいるんだ。生きていたのか。」
『助けて。こっちに来て。』
「雨音?」
俺の言葉が聞こえていないのか、雨音はその後も必死に、同じ言葉を繰り返している。言葉と同時に聞こえる荒々しい息づかいに、苦しげな様子が窺える。
雨音は死んだ今も、苦しんでいるのか。
何度も、何度も俺に助けを求めている。
俺は夢の中で、懸命に声の方へと叫んでいた。
「頼む、雨音!!どこにいるかだけでも教えてくれ!!!必ず兄ちゃんが行くから!お前を助けてやるからっ!!!!」
すると、雨音の声がぴたりと止んでしまい、代わりにザアアアアア……と水の流れる音が響き渡った。
それはまるで滝のように激しく、水が落下する音だった。
夢は終わり、俺は水をかけられでもしたかのような、したたり落ちる程の汗をかいていた。
そして、その日の夕方に、故郷で可笑しな自然現象が起きているというニュースを見た。
山の頂上にだけ降る、謎の雨。
小雨ではなく、異常な程勢いのある雨のようで、まるで滝のよう。
もしかして、夢の最後に聞いた音は……。
俺は、あそこに妹がいるのだと確信した。
最初のコメントを投稿しよう!