水神様と鎮魂の私雨

6/11
前へ
/11ページ
次へ
だからこうして、俺は故郷まで来たのだが、こんな化け物が出迎えるとは、思っても見なかった。しかも、水神からの遣いだと。 どちらにしろ、山の頂上に行きたかったのだから、丁度いい。 「わかった。俺を連れていってくれ。」 「はい。では、こちらに。」 そう言って、蛇の化け物は川の中にずぶずぶと潜っていったではないか。 「ま、待ってくれ。まさか、泳いでいくのか!?」 俺が怖じ気づくと、蛇頭だけを水面に出してあっけらかんと答えた。 「左様で。」 「無理だ!!歩いて山を登る方が早い!それに俺は泳ぎに自信がない。」 「こちらの方が、近道でございます。大丈夫です。溺れはしません。」 そういって、さっさと川の中へ姿を消してしまった。 俺はあー、だ、うー、だ呻いた挙げ句、諦めて川に足を突っ込んだ。 すると、何かが俺の足に絡み付いてきた。 「うえ!!??」 思ったよりも力が強く、そのまま川の中にドボンと落ちてしまう。 まずい!!息が!!! 浮かび上がろうにも、足が更に川の底へと引っ張られる。 もう駄目だ。溺れ死ぬなんて、最悪じゃないか。 「ご安心下さい。すでに呼吸が可能ですよ。」 蛇頭の声がした。 何を言うんだ、夢の中とは違うんだぞ。 今だってこんなに……。 「く、苦しくない…?喋れる!!?」 俺の口からあぶくが出る。 どうなっているんだ。本当に息が出来るなんて。 それによく見れば、俺の足は蛇の尻尾のようなものに、ぐるぐるに捕まっている。その尻尾は、蛇頭のものだった。 「私とくっついている内は、息が出来ますので。」 「そうか……。」 もう原理なんて、考えるだけ無駄だ。 蛇頭は、俺の足を引っ張りながら、ゆらゆらと泳ぎだした。 何だこの状況は。水中で背泳ぎをする事になろうとは。 それに見ようによっては、客人というよりも捕まっているようにも見えるのだが。 そんな事を考えていると、いつの間にか水面の様子が変わっていた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加