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だからこうして、俺は故郷まで来たのだが、こんな化け物が出迎えるとは、思っても見なかった。しかも、水神からの遣いだと。
どちらにしろ、山の頂上に行きたかったのだから、丁度いい。
「わかった。俺を連れていってくれ。」
「はい。では、こちらに。」
そう言って、蛇の化け物は川の中にずぶずぶと潜っていったではないか。
「ま、待ってくれ。まさか、泳いでいくのか!?」
俺が怖じ気づくと、蛇頭だけを水面に出してあっけらかんと答えた。
「左様で。」
「無理だ!!歩いて山を登る方が早い!それに俺は泳ぎに自信がない。」
「こちらの方が、近道でございます。大丈夫です。溺れはしません。」
そういって、さっさと川の中へ姿を消してしまった。
俺はあー、だ、うー、だ呻いた挙げ句、諦めて川に足を突っ込んだ。
すると、何かが俺の足に絡み付いてきた。
「うえ!!??」
思ったよりも力が強く、そのまま川の中にドボンと落ちてしまう。
まずい!!息が!!!
浮かび上がろうにも、足が更に川の底へと引っ張られる。
もう駄目だ。溺れ死ぬなんて、最悪じゃないか。
「ご安心下さい。すでに呼吸が可能ですよ。」
蛇頭の声がした。
何を言うんだ、夢の中とは違うんだぞ。
今だってこんなに……。
「く、苦しくない…?喋れる!!?」
俺の口からあぶくが出る。
どうなっているんだ。本当に息が出来るなんて。
それによく見れば、俺の足は蛇の尻尾のようなものに、ぐるぐるに捕まっている。その尻尾は、蛇頭のものだった。
「私とくっついている内は、息が出来ますので。」
「そうか……。」
もう原理なんて、考えるだけ無駄だ。
蛇頭は、俺の足を引っ張りながら、ゆらゆらと泳ぎだした。
何だこの状況は。水中で背泳ぎをする事になろうとは。
それに見ようによっては、客人というよりも捕まっているようにも見えるのだが。
そんな事を考えていると、いつの間にか水面の様子が変わっていた。
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