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ギラギラとした太陽の光から、柔らかな光に代わり、空色から緑色の世界に変わっている。
先程まで、魚が泳いでいたりもしたが、今は姿が全く見えない。
川の底の砂利も見当たらない。ただそこに水だけしか存在しない。川の底など見えない。
そして、水の中からでも十分に聞こえてくる、激しい水の音。
この感じ……。
まるで、夢の中と似ている。
「着きましたよ。」
その声と共に、ザバァと水面から引き上げられた。
「!!……ここが。」
俺は言葉を失った。
整備された石畳。赤い大きな鳥居。その側にある大きな神木には、祭りのような提灯がぶら下がっている。鳥居の奥には、瓦屋根の大きな屋敷がそびえ立っていた。
あの荒れかけた小山の頂上に、こんな場所があったとは。
しかも、廃れた様子もなく、手入れが行き届いていいる。雑草の一つも見当たらない。
「ここからは、お一人でどうぞ。」
「え?」
「ここから先は、私共が入る事は出来ません。それに、すぐそこに水神様は来ておられます。さあ、待たせてはいけません。」
蛇頭はそれだけ言うと、水の中に姿を消してしまった。
改めて見れば、社の周りは水で囲まれていた。というより、湖の中に社があるのだろう。頂上には、おいしい水の出る湖があるとか、昔聞いた事があった。
辺りには、雨音だけが響いている。
あんな化け物でも、いなくなると心細い。
一瞬、もう帰ろうかという気持ちが首をもたげる。
「ここまで来たんだ。何としても、天音に会わないと。」
俺は意を決して、鳥居の奥に足を踏み入れた。入ったとたんに、あの激しかった雨がぴたりとやむ。
「お兄ちゃん!」
可愛らしい声がした。
鳥居を越えた先に、俺の妹の姿が現れた。
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