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あの頃と、全く姿が変わっていない。幼いままだ。
やはり、雨音はもうこの世にはいないのか。生きていれば、成人しているのだから。
「来てくれたのね、お兄ちゃん!会いたかった。私ずっと、会いたかったの。」
雨音は、大きな目に涙を溜めながら、俺に駆け寄ってくる。
俺もすぐさま抱き締めてやりたい衝動に駆られた。
しかし、再会した事の感動以上に、とてつもない違和感が俺の中で勝っていった。
何だろう。
確かに目の前にいるのは、雨音なのに。
何かが違う気がする。
俺の様子の変化に、雨音は立ち止まって首を傾げた。
「どうしたの?お兄ちゃん。」
「違うだろ。」
「え?」
何故こんな事を忘れていたんだろう。
「お前、お兄ちゃんなんて呼んだ事なかったろ。」
雨音、いや、雨音らしき者の目が、驚きで見開かれている。
ほら、やっぱり。
俺も馬鹿だった。声だけで、こいつが雨音と決めつけてしまっていた。
しかし、雨音は施設から両親が連れてきた養子。俺の事はなかなか兄として見られず、『オサム君』と呼んでいた。
お兄ちゃんとは呼ばない。
「お前、誰だ?」
俺が問い詰めると、雨音の姿をしたそれは、肩を震わせ、高らかに笑った。
その声は、雨音のものとは明らかに違い、低くおぞましい。
「く、ク…アハハハハハハ!!!!今頃気づいたか小僧が!!」
もこもこと体が膨らみ、鳥居を越える程大きくなる。顔が真っ黒になり、目が赤く輝く。大きく口が裂け、赤く長い舌が飛び出る。
胴体が長く伸び、手足が無くなる。
代わりに黒光りする鱗に、びっしりと覆われていった。
また俺の嫌いな物の姿が、そこに大きさを増して存在している。
化け物。
いや、水神か。
先程の蛇頭も、水神に会わせると言っていただけで、雨音の事は一言も言ってはいなかった。
騙されたというより、単に俺が馬鹿だっただけか。
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