エリート課長との蜜月

2/9
5106人が本棚に入れています
本棚に追加
/77ページ
「というわけで、わたしいま小野塚課長と一緒に暮らしてるの」  目の前にいる佐々木亜衣は、カフェオレを盛大に噴き出しそうになるのを必死にこらえている。  親友の亜衣とは、玲哉さんに初めて抱かれたあの翌日に会って以来、約1か月半ぶりのランチだった。  今日はふたりで、評判のパンケーキ屋に来ている。  会うのは1か月半ぶりでも、SNSでは頻繁に連絡を取り合っていたのだが、たとえ個人的なメッセージのやり取りであっても、ここ最近の出来事をあまりにも赤裸々に記録するのがためらわれて、 『うん、元気だよ』 『広報誌の発行日直前でいまバタバタなのー』 『小野塚課長とお付き合いすることになったよ』 というような、簡潔な内容しか報告していなかったのだ。 「今日はもう何を聞いても驚かないぞー!って思いながら来たのに、やられたー。優奈ってそんな行き当たりばったりみたいなことする子じゃないはずなのに大丈夫?騙されてない?」 「う~ん…わたしを騙すメリットなんて、ないよ?一緒に暮らすようになったのにはちょっと訳があってね…」  わたしは亜衣に、その顛末を語り始めた――。  マサキがわたしのアパートのベッドで、新しいカノジョとした痕跡を見つけてしまった翌日、わたしはマサキにメールで抗議した。    マサキが出て行ったあと電話してもメールしても応答がなかったから、そのメールも見てくれているかどうかすら不明だったけれど、それでも抗議せずにはいられなかった。 『人の家でああいうことをして、しかも片付けもしないなんて、どういうつもり?私物を取りに来るのは仕方ないとしても、ああいうのはもう二度とやめてください』  すると、しばらくして返信が届いた。 『まだ今月分の家賃は俺も負担してるし。人の家じゃなくて、俺の家でもあるってことだよ。シーツが汚れてたか?悪い悪い、いまのカノジョ濡れやすくてさ、洗濯したら落ちるだろ?』 『じゃあ来月からはもう来ないで。シーツは捨てたわよ!』 『りょー』  わたしはこのやり取りを、玲哉さんのマンションのソファーでしていた。    反省どころか悪かったとすら思ってないじゃない!何が『濡れやすくて』よ!  わたしが怒りに打ち震えながら、スマホを床に叩きつけそうになっていたところで、後ろから玲哉さんの手が伸びてきて、わたしの手からスマホを取り上げた。  驚いて振り返ると、玲哉さんはわたしとマサキのやり取りを読んで「ふーん」と呟いたまましばらく無言で何かを考えている様子だった。  玲哉さんのマンションでマサキとやり取りしたのはまずかっただろうか?と不安がよぎり始めたところで、玲哉さんが口を開いた。 「あのアパート、引っ越せば?」 「わたしもそれは思いました。でも新しいところを借りるとなると、物件を見て回れるのが休日だけだから、すぐってわけにはいかないし…」  それに初期費用やいろんな転居手続きもある。 「ここで一緒に暮らせばいいじゃないか。部屋なら余ってるし」 「えぇぇっ」  それは、思いもよらないお誘いだった。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!