エリート課長side

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 店を出ると、夜風が冷たく感じた。  古田と別れて歩き出すと 「お腹があったまりましたねー」 と満足げに笑う優奈が横にいて、思わず口元が緩んでしまう。  優奈が俺の隣で笑ったり気持ちよさそうに眠っているのを見るだけでアルファ波が出まくるような気がする。つまり優奈は俺にとって究極の癒しだ。  当初、まだ女性不信が拭えずに優奈にひどいことを言って、ひどい態度をとったことをずっと後悔している。  しかしあの日、衝動的に優奈をマンションに連れ込んだことに関しては、自分を褒めてやりたい。  その直前に優奈を手ひどく振ってくれたマサキくんにも感謝だ。  それだけではない。  優奈のことを5年間、温室で大事に守り続けてくれてありがとうとさえ思う。  優奈は自己評価が低くて自分では気づいていないようだが、かなりモテる。社内でも「広報室の相沢さん」はそれなりに有名なのだ。  あの飲み会の時も、何かを思い悩むような愁いを帯びた表情と潤んだ瞳で、忌々しいことに男たちを虜にしていた。  総務の武井は間違いなく優奈のことを狙っていた。  気が利いて仕事も実直、かわいい笑顔に癒されると聞いて、コンサルティング本部のほうに異動してきてもらおうかという話もあったらしい。その打診が本人に届く前に握りつぶされたのは、古田の仕業だ。 「相沢さんは広報室に必要な人材なので絶対にだめです。無理です」と言い放ったらしい。古田め。  マサキくんが囲っておいてくれなければとっくに他の男にさらわれていただろう。  しかも彼は、自分が温室で育てていた花の価値がよくわかっていなかったようだ。  一体、五年間なにやってたんだっていうほどに優奈の中はまるっきり未開発で、開く前の堅いつぼみのようだった。  そして、自分は不感症なのだと言って泣いていた。  最初のあの夜に、優奈の中に指を挿れたときに驚いた。「なんだ、すごく締まるじゃないか」と。  優奈はあの時…いや、もしかすると今でも、俺を相当な遊び人だと思っているようだが、それは以前の話で、帰国してからの半年はそういう色っぽい話は皆無だった。仕事が忙しかったし、特定のパートナーを作る気もなかったから、あのときは本当にごぶさたでゴムすら持っていなかったのだ。  そのことに途中で気づいてどうしようか一瞬考えたが、優奈が美味しすぎて愛撫を止められなかった。もしあのとき優奈が俺以外の男の名前を叫ばず、欲望のままに最後までしていたら…優奈をひどく傷つけていただろうか。  重ね重ねマサキに感謝だ。  早い話が、マサキくんはいつも優奈より先に果ててしまう自分に自信を失くしてしまったってところか。その負い目を優奈が不感症でなかなかイかないのが悪いのだと八つ当たりしたのだ。しかも綺麗な花を前にして怖気づいて勃たなくなるとは、なんとも若い。  後悔したってもう遅い、俺は優奈を手放す気はないからな。    ………おっと、いけない。  そんなことを考えているうちに、下半身がアヤシイ雰囲気になってきた。  俺はタクシーを止めた。 「あれ?地下鉄で帰るんじゃ……」 「早く帰って優奈のこと抱きたい。我慢できない」   驚く優奈の耳をぺろっと舐めてささやいた。  タクシーに乗る直前、行き交う車のテールランプに照らされた優奈の顔は真っ赤に染まっていた。  そしてこの日も、明け方まで優奈を抱きつぶしたことは言うまでもない――。
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