うちの父上さん

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うちの父上さん

 父の日。  うちの家の父の日は、ちょっと変わっている。  母と私が、 「父の日、何かご馳走(ちそう)作ろうか? 何か食べたいものある?」  と、父に()いてみても、 「いやいや、ちちの日なんだし、何も特別なことしてくれなくていいよ。せっかくの休日なんだし、ゆっくり、くつろいで、くつろいで」  と、ちょっとおかしな日本語というか、どことなく()()っていないような返事で、遠慮ばかりする。 「ちちの日なんだし、プレゼントとかも、パパからだけでいいからね!」  と、これまた、おかしな日本語で、父は遠慮する。 「まぁ、パパがそう言うんだから、じゃあ~、特別なことは何もしないからね」  母と私が父に確認すると、 「それでよし、それでよし!」  と、父も快諾(かいだく)。  その夜、母と私が夕食を作り終えて、テーブルに並べ、 「パパ~ッ! ごはん出来たよ~ッ!」  って、父を呼ぶと、 「はいよ~!」  と、早速、二階から下りて来た。すると、 「はいっ♪ ちちの日、おめでとう♪」  と、父から母に、真っ赤なリボンで(くく)られた、何やら薄い箱が手渡された。 「ありがとう♪ ……って、父の日なのに、逆じゃない?」 「何をおっしゃる、うさぎさん! ちちの日だもの、これでよし!」  と、父は、してやったりの表情を浮かべ、 「ささ、お前さんにも、プレゼント、あるんだよ♪」 「えっ?! ありがとう~♪ ……って、パパ~ッ! 父の日なんだから、逆じゃない?」 「いいのいいの、いいんだよ、これで♪ だって、ちちの日だもの、人間だもの」 「相田みつをさん、(はさ)んで来たね」 「おっ、娘よ! 分かる年頃になったかい! パパは、うれしいよぉ~~~♪」  涙を浮かべて喜ぶ父。 「じゃあ~、()けさせてもらおっか♪ パパ、ありがとね~♪」 「ありがと~♪」 「どういたしまして♪」  母と私が、父からの包みのリボンをほどき、ちょっと色っぽい感じの包装紙を、丁寧に()いて、箱を開けた。 「えっ?」 「えっ?! ブ……、ブラジャーッ?!」  母と私は絶句(ぜっく)した!   も、も、ものすごくエロ全開な、悩殺系Sexy《セクシー》スケベブラだったのだ! 「そッ! 『(ちち)の日』だもの! 人間だもの♪」 「旦那からブラジャーもらうってのも、少々複雑だけど……」 「父からブラジャーもらうってのは、もっと複雑だよ、ママ……」 「父上が、妻と娘に、贈るブラ♪ (ちち)上向(うえむ)く、『乳上(ちちうえ)さん』だYo~ッ!」  ノリノリの父に、呆気(あっけ)に取られていた母を、正気(しょうき)に戻そうと、母の両腕を(つか)んで 「ママッ! 母上(ははうえ)ッ! 母上(ははうえ)ッ!」  って、呼びながら、母の身体を()すっていると、父が、 「これこれ、娘よ、母上(ははうえ)ではないぞ! 乳上(ちちうえ)じゃ、乳上(ちちうえ)ッ!」  と、真顔(まがお)で訂正した。そして、続けて、 「娘よ、コレを着ければ、お前さんも、娘ではなく、乳上(ちちうえ)じゃ! よいか! 乳上(ちちうえ)じゃぞッ! 乳上(ちちうえ)ッ! アッハッハッ♪」  うちの父上(ちちうえ)さんが、どこで、この『乳上(ちちうえ)さん』を、どんな顔して、どんな風に買って来たのか、()くのも恐く、 「ここで二句(にく)♪」  と、川柳(せんりゅう)を贈ることにした。 「父上、合いの手、よろしく!」 「あいよッ!」 「では、一句!」 「よっ!」 「父上が、母に『乳上(ちちうえ)!』、ややこしや!」 「よっ!」 「もう一句!」 「よっ!」 「父上が、娘に『乳上(ちちうえ)!』、ややこしや!」 「よっ! ややこしや~~~ぁ、ややこしやッ!」  ー ポンッ♪ ー 「ややこしや~~~ぁ、ややこしやッ!」  ー ポンッ♪ ー  うちの家は、『ちちうえ』さん三人で暮らしている。  これでいて、うちの家は、何となくに、おさまっている。  ー ポンッ♪ ー
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