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名古屋のじっとりとした重々し梅雨時にゲンナリしながりも、乾したばかりの洗濯物を見つめ、生まれ故郷北海道の爽やかな六月を思い出しながら今夜も帰らない夫の健二と別れようかと決意も出来ずに心まで重く苦しく、鏡に映る小皺をクリームで消し、指で涙も消し、真っ赤なレインコートを羽織りスマホの時間はすでに10時を過ぎていた。もう待つのはイヤだと玄関のドアを開け、手には一泊分の化粧品や着替えを持ち地下鉄に飛び乗った。お酒も大して飲めないユキはファミレスに入った。行きずりの恋をする勇気もなく、注文したのはミニチョコパフェとホットコーヒーだった。ホテルに一人で泊まろうかなと、ファミレス傍のビジネスホテルに入った。フロントでお部屋が空いているかを聞いていたら、後ろから男性がやって来たので、フロント係は「お連れ様ですか?」と言い出したので驚いて、その人の顔を見たら結婚前に付き合っていた札幌の彼に瓜二つで、思わず「サトシなの。」と叫んでしまったら「いえ、サトルです。」と微笑んだ。「失礼しました。」と顔を赤らめて、「シングルお願いします。」と焦って叫び、カードキーを受け取り、エレベーターに飛び乗った。大浴場があるホテルで部屋着に着替えてから誰もいない湯船にドボーンと飛び込んだ。サトシとの事を思い出しながら、彼が結婚してくれていたら、こんなジトジトとやまない雨の中を歩くこともなかったし、クソ暑い夏を死ぬまで過ごすこともなかったのにと、お風呂から上がってからも一人でブチブチとつぶやきながら噴き出す汗をタオルで拭いていたら、サトシに似た男サトルも汗を拭きながら男湯から出てきた。「ヤー、先程は。」と微笑みながら、「そんなにサトシさんに僕似てますか?」と声を掛けられ、思わず大笑いして、「無料の夜鳴きそば食べませんか?」と誘われ、なんでバーのカウンターじゃないんだと思いながらも気が付いたら朝になっていた。隣にはサトシに似たサトルが眠っていた。そしてまた呟いた。「私って夜鳴きそばで落ちたのかしら、しかも無料の。私って、私って。」記憶がまるでない夜を抱えて今日から生きて行くのか自問自答していて、夫の存在はすっかり消えていて、取り敢えず離婚だ。そのあとこの男はどうしたら良いのか決められずに気付いたら二人で名古屋モーニングしていた。そしてユキはサトルを見つめながら輝いていた。梅雨明けのような眩しい太陽のようだった。
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