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「はぁ……はぁ……。もう!!なんなのよ!!あの男は!!」
本来なら人間の方が私を見て逃げ去っているところなのに……どうしてこの私が、あんな男なんかに……。ま、まぁ顔はイケメンだったけど。
「で、でも!!女性に対してあの言い方は失礼だわ!!嘘でも「綺麗」っていうところでしょ普通!!絶対彼女いないわね。アイツ」
なんて、文句ばかり言ってるが。正直あの男に言われたことは、全て的を射ていた。
確かに最近肌はカサついていたし。おでこや頬には大人ニキビが何個か出来てしまっている。
このままじゃマズいかな?とは思ってはいたけど、普段はマスクだし。外した時は皆この裂けた口に目がいくだろうと思って、特別お手入れなんてしていなかった。
そしたらまさか、あんな男なんかに見破られてしまうなんて……。
「このままだと、口裂け女としての名が廃る!!」
絶対あの男に、私を見て「綺麗だ」と言わせたい。そして怖がらせたい。ぎゃふんと言わせたい。
「というわけで。私、もっと綺麗になりたいんです!!お願いします!!花子様!!」
「えぇ~~なにそれぇ~~!?なんか超ウケるからぁ、手伝ってあげる~~。ウチとクッチーの仲だしねぇ~~」
「ありがとうーー!!」
誰もいない夜中の学校のトイレで、私と花子ちゃんの声だけが響き渡る。
私と同じく。人間たちの間で、都市伝説とまでなった有名なトイレの花子さん。
普段はどこかの学校のトイレに居て、真っ黒なおかっぱ頭で赤い吊りスカートをはいているが。私の様な仲間と会う時は、髪を巻いて、服装もお洒落に決めてきている。後口調も変わる。
そんな花子ちゃんの肌は、いつもきめが細かく整っていて、羨ましいくらいに美肌だ。私みたいに、カサつきもニキビもない。
「ねぇ。花子ちゃんは、どうしてそんなに肌が綺麗なの?」
「えぇ~~?ウチ綺麗かなぁ?」
「綺麗よ!!私と交換してほしいくらいだわ!!」
「えぇマジぃ?ウチ的にはぁ~テケテケちゃんの方がめっちゃ美肌って思ってたから、なんか超嬉しい~~」
「え、あの子も肌綺麗なの?」
「だってテケちゃん高校生だしぃ~~。一番お肌とか気にする歳じゃん?」
「そっか。私なんて若い頃の方が全然気にしてなかったわ」
「化粧水と乳液くらいはしてないと、後々シミとかになっちゃうんだよぉ?」
「ってことは……私って、もう手遅れなのかしら」
おでこに出来ていたニキビに触れて、思わず泣きそうになってしまう。
こんなことになるなら、生きてた頃からちゃんとお手入れしてればよかった。
そしたらこんな汚い肌を、あの男に見られることなんてなかったのに……。
「ん?待って。どうして私は、さっきからあの男のことばかり……」
ずっと頭の片隅から離れない、男の顔と声。
あの男の態度にまだ腹を立てているから?
でも、それならこんなに落ち込む必要なんてないのに……。なんで私は汚い肌を見られてこんなにショックを受けているの?
「どうしたん?さっきから真っ赤になったり。真っ青になったり」
「え!?あぁいや!なんでもないわ!」
「そんなに落ち込まなくても大丈夫だって~~。正直クッチーは超美人なんだしぃ~~。今からでもちゃんとお肌手入れすれば、間に合うって」
「ほ、ほんとに?」
「もちもち!だから頑張って!ウチのも色々貸すし」
「あ、ありがとーー花子ちゃん!!」
それから私は、花子ちゃんにスキンケアの仕方を色々教えてもらいながら。毎日努力を続けた。
乳液や化粧水なんかも調べて勉強して、肌が乾燥しないように保湿を心掛けた。人間を驚かせるのも少しの間控えて、夜はしっかりと睡眠をとった。
そうして女磨きに専念して一か月が経ったある日。
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