口裂け女は、綺麗と言われたい。

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「すーーはーーすーーはーー。よし」 何度も深呼吸を繰り返して、ずっとドキドキしている心臓を落ち着かせる。 というか、なにをこんなに私は緊張してるんだろうか? 「あ、来た!」 あの時と同じスーツ姿で、コツコツと胸を張って歩く失礼男。 意を決した私は、マスクを着けて男の前に飛び出した。 「ねぇ……私、綺麗?」 「……貴女は、あの時の」 「っ……ね、ねぇ!私……き、綺麗?」 心臓が煩い。目が合わせられない。 私、怖いんだ。 また「綺麗じゃない」と言われるのが、この人に否定されるのが。 ーーなんで? ーーなんでこの男に否定されるのが嫌なの? 『恋は幽霊も変えちゃんうんだねぇ~~』 花子ちゃんの言葉が、ふと頭をよぎった。 もしかして、私……。この人のことが……。 「はい。とても綺麗です」 「え!?」 「先日は失礼なことを言って申し訳ありません。自分、いつもこうなんです。女性に気を遣えないと言いますか……思っている事をそのまま口にしてしまうのです」 「あぁ……」 真面目そうな見た目と、堅苦しい口調からして、なんとなく予想が出来る。 「なので、いつも相手を怒らせてしまうのですが……貴女のようにまた会いに来てる方は初めてです。それにその肌、とても綺麗ですよ」 あんなに失礼だった男が、私を見て優しい微笑みを向けてくる。 しかも「綺麗」って言ってもらえた。 「っ!!ぁ……ありがとぅ……」 胸がキュッと締め付けられるみたいに苦しい。 顔も熱くて、まるでお酒に酔ったみたいにクラクラする。 嬉しい。 好き。 もっと褒められたい。 抱きしめられたい。 付き合いたい。 恋人になりたい。 そんな言葉が、私の中で駆け巡っていた。 けどそれは、叶わない夢。
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