口裂け女は、綺麗と言われたい。

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「よろしければ、そのマスクを外して、貴女の顔を見せてくれませんか?」 「えっ……そ、それは」 だって私は、口裂け女。 こんな口が裂けた姿を見られたら、きっとこの男も逃げ出してしまう。 本当なら「綺麗」って言われた時点で、マスクを外して驚かせなきゃいけなかったのに……。私はそうしなかった。したくなかった。 嫌われたくない。 こんな醜い姿、見せたくない。 「っ……ごめんなさい!!」 私は咄嗟に走った。 彼にこんな私を見られるくらいなら「綺麗」だと言われた思い出だけでいい。 そう思ったのに。 彼は逃がしてはくれなかった。 「待ってください」 彼の手が、私の腕を掴んで引き止める。 表情はあまり変わってないのに、彼の手はとても熱い。 「その……もっと知りたいんです。貴女の事」 嬉しい。 嬉しいのに。 「でも……私は」 「『口裂け女』……なんですよね?」 「え?」 彼の口から出てくるとは思わなかった言葉に、頭が真っ白になった。 私が口裂け女って知っていた? いつから?どうして? 「あっ」 呆然としている間にマスクを外されてしまい。私の裂けた口が露になる。 けど彼は、他の人間達のように逃げなかった。 寧ろ、私の顔をじっくり見てくる。 「あ、あの……流石に恥ずかしいんですが……」 「す、すみません!その……やはり綺麗な方だなと……思って」 「私が!?こんな口なのに?」 「この肌……きっと努力されたのですよね?自分を良くするために頑張る女性は、とても綺麗だと思います」 そう言って、彼は私の頬にそっと触れた。 優しくて、温かい。 身体の底から言葉じゃ表せない感情がぶわっと溢れそうになって、思わず涙が零れてしまった。 「い、いいの?こんな私が、貴方を好きになっても」 「勿論です。だからこれからは、もっとあなたの素敵なお顔を見せてください」 「は、はい!!」 それから彼と一緒にいる時間が増えた私は、人間を驚かすこともしなくなり。いつしか、人通りの少ない真夜中の路地で口裂け女が出る。という噂は、パタリと止んでしまったらしい。
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