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人通りの少ない真夜中の路地。
私はいつもそこで、赤い服とマスクを着けて、一人で歩いている人間を狙っている。
「ねぇ……」
「え?俺……ですか?」
「私、綺麗?」
「えっ……あ、はい……とても綺麗です」
「ふふっ……これでも?」
「ギャアァアーー!!」
マスクを外して私の素顔を晒せば、人間はたちまち恐怖の声を上げて逃げ去っていく。
だって私は、都市伝説とまでなったあの『口裂け女』なのだから。
「ふふっ。人間の悲鳴を聞くのは気持ちがいいわぁ~~。綺麗だって言われるのも悪くないし!」
そうして毎日のように、人間を脅かして楽しんでいた私だったが。ある日。そんな私を見下してくる変な男に出会ってしまった。
「お!来た来た!今日の獲物が」
その人は黒いスーツを着たメガネの男性で、キッチリ固めた髪といい。胸を張って歩く姿といい。随分と真面目そうな印象だった。
そんな人間が、私の裂けた口を見たらどう反応するのだろうかと。そんな好奇心に胸を躍らせながら、私は男の前に出ていつもの台詞を言った。
「ねぇ……私、綺麗?」
けど、かえってきた言葉はーー。
「綺麗……とは、少し言い難いですね」
「……へ?」
マスクを外す準備はとっくに出来ていた私の手は、ピタリと止まってしまった。
今まで誰からも「綺麗じゃない」なんて言われたことが無かった。
なのにこの男は私を否定した。この私を。
「……なによそれ」
本来なら私を綺麗じゃないと言った奴には、問答無用で襲い掛かるのが口裂け女の流儀なのだが。理由くらいは聞かないと納得がいかない。
「因みに。この私の何処が駄目だっていうの?」
男の視線が私の顔をじっくり見つめる。
「な、なによ」
鋭い目つき。ブラウンの瞳がとても綺麗で、吸い込まれそうになる。
「そ、そんなに見られたら……その……は、はずかs」
「その肌。スキンケアとか何もされていないでしょ?マスクをしていても分かります」
「へ?」
「ちゃんと毎日化粧水と乳液使っていますか?女性は歳をとるごとにシミやカサつきが増えてくるんです。化粧した後はしっかりスキンケアをしないと、そのうちもっと肌がボロボロになりますよ。あぁほら、おでこにも大人ニキビがあります」
そう言いながら、男はあろうことか。私のおでこに出来ていたニキビを、指でトントンと触れてきた。
実は気にしていた肌荒れを指摘された挙句。長い髪で隠していたニキビを触られてしまった恥ずかしさは尋常ではなかった。
「いやぁあーーーー!!!!」
あまりの羞恥心にパニックを起こした私は、思わずその場からダッシュで逃げ去ってしまった。
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