3人が本棚に入れています
本棚に追加
星空が広がっていた。
私たちを押し潰すような圧倒的な力で。
見上げてくらりと目眩がしたけれど、惰性でそのまま歩いて、草丈の低そうな場所に倒れ込むように二人転がった。
しばらく無言でひっくり返っていたが、隣から穏やかな声がした。
「星になって空にとけてしまいたい」
私は泣きそうになる。繋ぎ止める糸を懸命に探す。
「星もそう思っているかもしれない。あの青い星の小さな生き物になりたいって」
「こんなに……」
声が途切れた。
言え。言え!私は強く念じる。
そして、消えてしまいそうなほど小さく、震えて私の耳に届いた。
「……こんなに辛いのに?」
私はカズホを抱きしめた。地面に転がり露で湿ったまま、ただ夢中で覆い被さるように抱きしめた。
私に抱えられたまま、こらえきれずに呻くようなくぐもった音が漏れる。私とカズホの間を、熱い涙が通っては冷えて髪を濡らしていく。
なにも言葉は出なかった。
しばらくして、カズホが腕の下でモゾモゾと動く。
「はだびず……」
起き上がってリュックからティッシュを渡し、カズホがフーンと鼻をかんでいる間に、レジャーシートとブランケットを広げる。
カズホはそこにコロリと寝転んで、ブランケットで顔半分まで覆った。
「スッキリした……」
鼻だろうか。心だろうか。修行が足りない私にはわからない。
「星が降ってくるみたいだぁ」
トロトロと呟いたカズホが、電池の切れた懐中電灯のように眠りに落ちた。その唐突さに私はギクリとする。
寝息を聞きながら、起きている時には言えなかった言葉を繰り返す。
「大丈夫だよ。大丈夫」
会わぬうちに削げた頬が悲しい。
その頬骨に触れ、なぜ人は星に願うのかを知る。
いつかまたカズホに暗闇が訪れた時、どうかそばに居られるように。それが叶わないなら、カズホに光を。
六等星でも構わないから、光を届けてくれ。
闇が薄くなる。空に青味が混じり、東の端の星が溶けるように消えていくまで、私は細いカズホの手を握り、星に願っていた。
おわり
最初のコメントを投稿しよう!