第1章:血染めの祝福

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第1章:血染めの祝福

 窓から射し込む夕日が、金色の髪を淡い赤に染める。男性は椅子を引いて立ち上がろうとしたが、少しよろめいたので、シズナがすぐさま駆け寄って、父の腕を取り支えてやった。 「いつも悪いな、シズナ」  そう笑みかける父エルシの顔は、シズナの方を向いてはいるが、目の位置には横一直線に大きな傷が走り、開かれる事は無い。  両親は、十六年前、赤子のシズナを抱いてこの村にやってきたという。その時から既にエルシはこうで、大黒柱の目が見えなくて暮らしてゆけるのかどうか、村人達は気を揉んだらしいが、普通の女性よりひとまわり体格の大きいイーリエが力仕事に才を発揮し、畑を耕し野菜を育てた事で、家族の食べ物はまかなわれた。  また、エルシは盲目ながら手先の感覚だけで銀細工のアクセサリや飾り小物を器用に作り上げ、金にはならない――そもそも外界へ降りないこの村に金銭は意味を成さない――が、村人達の小さな楽しみにした見返りに、生活に必要な諸々をもらったので、シズナの記憶にある限り、一家が生活に苦しむ事は一切無かったのである。
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