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第5章:赤い聖剣『フォルティス』
軽い音を立てて、シズナの手の中に『混合律』が収まる。首にかければ、胸元で魔律晶は虹色の光を放った。
「色々と心配事はあるだろうが」
手の中で『混合律』をもてあそんでいると、ミサクが神妙な顔をしてシズナの肩に触れる。
「ただ無作為に僕らが選ばれた訳ではない。この一年の貴女の実力や人間関係を見て、きちんと貴女の補佐を出来る者を、ヘルトムート王の家臣が厳選した。困った事があったら、遠慮無く頼ってくれ」
正直、仲が良いと言えないイリオスが選ばれた事には不満があるが、彼の剣の腕前については、手合わせをしてきたこの一年で、騎士団の中でも群を抜いている事はわかっている。コキトも魔法の使い手として頼りになる。それに、アティアやミサクといった、気の置けない相手が傍にいてくれる事は、何よりもシズナに安堵感をもたらしてくれる。
授かった聖剣『フォルティス』を腰の剣帯に装備すると、シズナは一同を見渡し、勇者として最初の言葉を発した。
「行こう。あてにしている」
その言葉に、ミサクが深く頷き、アティアが笑みかける。イリオスが口笛を吹き、コキトは相変わらず感情が読めなかったが、わずかに口の端を持ち上げた。
この五人で、旅立つのだ。アルダ――魔王アルゼストを打倒する道程へと。
腰に帯びた聖剣の柄に触れれば、剣はわずかに熱を帯びたように思えた。
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