第5章:赤い聖剣『フォルティス』

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第5章:赤い聖剣『フォルティス』

 小川のせせらぎが聴こえたので近づいてゆく。ゆったりと水を飲む鹿の姿を見つけて、シズナがその首を狙おうと、茂みに身を隠したまま弓に矢をつがえた時、ミサクが無言で銃を抜き、構えたかと思うと、直後、鹿の頭に小さな穴が穿たれ、獲物はゆっくりと倒れて、水辺に赤い血を流した。  シズナは驚いて構えを解き、傍らのミサクをまじまじと見つめる。彼が掲げたままの銃口からは、煙が立ちのぼり、硝煙のにおいが辺りに漂う。だが、銃弾を放つ時に響き渡るという派手な射撃音は一切しなかった。不思議に思って凝視していると、視線に気づいたミサクがこちらを向き、銃に埋め込まれた青色の石――魔律晶だ――を指差した。 「『静音律』。武器に取りつけ、一切の音を遮断する事で、敵に気取られないようにする、暗殺者向けの魔律晶だ」  それで銃弾を放っても、発砲音がしなかったのか。 『私があれだけ手取り足取りじっくり教えてやったのに、「静音律」を大事な物に取りつけるしか成果が無かったじゃないか』
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