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第5章:赤い聖剣『フォルティス』
いつかコキトがミサクにそう言った事を思い出す。魔法士の指したミサクの『大事な物』とは、この武器の事だったのだろう。そして、初めて王都に辿り着いた日、馬車を追いかけてきたハルピュイアを、彼が一瞬にして撃退した方法も、この銃だったに違いない。
「とにかく、今晩の食料は確保出来た。皆のところへ持って帰ろう」
騎士は銃をホルスターに収めると、茂みをかき分けて倒れた鹿のもとへ近づく。鹿は若い雌で、それほど巨体ではなかったが、五人分の食料には充分事足りる。きっと肉も柔らかいだろう。太めの枝を伐採し、そこにくくりつけて、シズナとミサクの二人がかりで運んで、仲間達の元へ戻った。
「へえ、嬢ちゃん坊ちゃんにしては上々じゃねえか」
成果を目にしたイリオスは、相変わらずのにやけた笑いで口笛を吹き、それを鋭い視線で一瞥したアティアが、平然と鹿を短剣でさばきにかかる。コキトは『火炎律』で火を熾す。
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