第5章:赤い聖剣『フォルティス』

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第5章:赤い聖剣『フォルティス』

 いまいちやる気に信用がおけないイリオスだが、シズナとミサクが狩りに出ている間に、木の実を集めるという仕事はきっちりこなしていた。体格的に、役目は逆だった方が良いのではないかという気もしたが、これから旅をする仲間に、逐一いちゃもんをつける訳にもいかず、シズナは装備を解き、焚火の傍に腰を下ろして膝を抱え、肉塊になった鹿が串に刺されて炙られてゆく様を、ぼんやりと碧の瞳に映した。  やがて、 「あっ、ほら、シズナ様。良く焼けましたよ。はい、どうぞ」  アティアが嬉しそうに鹿肉を火から遠ざけ、シズナに手渡す。塩と胡椒だけで味付けされた、城の料理に比べるべくも無い質素な食事だが、初めての旅に身体は知らず知らずのうちに疲れを訴えていたようで、肉のにおいをかぐだけで食欲が刺激された。 「いただきます」  軽く頭を下げて、肉にかぶりつく。見込み通り肉は柔らかく、塩胡椒だけでも美味しく食べられる。 「ふうん、侍女がさばいた割にはうめえな」 「屋外での食事もおつなもんだね。これで夏虫が飛んでなければなおいいが」
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