第5章:赤い聖剣『フォルティス』

1/1
前へ
/238ページ
次へ

第5章:赤い聖剣『フォルティス』

 しかし、剣の師匠のガンツも、『若いうちはいいがな、疲れってのはきちんと取らねえと、忘れた頃にドカンと襲ってくるからな』と、稽古後の休息を強く推奨していた。ここはミサクの言葉に素直に従うべきなのだろう。そう判断したシズナは、アティアから掛け布を受け取り、ごろりと草の褥の上に寝そべる。  空を見上げれば、宵空に無数の光が瞬いている。 『あれは水瓶を持つ乙女。そっちは飛竜を乗りこなす戦士』  耳の奥で、懐かしい声が反響する。 『オーキド老の星を読み解く知識は面白いね。ただの点が、線として繋がり、無数の絵を作り出すんだ』  アルダと共に、草原に身を投げ出して満天の空を見上げ、星座を読んだ夜を思い出す。アルダは今、この空を見ているだろうか。星に絵を描いているだろうか。  それとも、この空も価値の無い、滅ぼすべき人間のくだらない妄想と思っているだろうか。  段々と記憶が薄れて、紫色しか思い出せなくなった顔を回顧しようとしているうちに、眠りの雲は、するりとシズナの脳内に滑り込み、静かな闇へと導くのであった。
/238ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加