第1章:血染めの祝福

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第1章:血染めの祝福

 父の腕を引き、足元のわずかな段差を注意喚起しながら食卓へと導く。父が卓につき、シズナも斜め向かいに座ると、母が湯気を立てるスープ皿と蜂蜜の入ったルイボス茶のカップを卓上にみっつ並べ、真ん中にほかほかのロールパン入りの籠を置いた。  そうして母も席につき、三人で「いただきます」と手を合わせて、夕飯が始まる。いつもの光景だ。  母が育てた葉物と根菜たっぷりのコンソメスープを口に含む。素材の味を活かした美味さがたちまち口内に広がって、シズナは自然と笑顔になる。こまごまとした細工が得意な父に対し、母の農作業は豪快で、「エルシとイーリエは男女を間違えて生まれてきたんだあな」とからかわれ、母がそれを口にしたオーキド老の頭をべしんとはたいた事がある。その時、老はくらくら目を回していたので、冗談半分本気半分の力がこもっていたに違いない。  スープで身を温めると、籠に手を伸ばし、ロールパンをひとつ手に取る。真ん中でちぎればまだふかふかのパンは綺麗に割れた。
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