第5章:赤い聖剣『フォルティス』

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第5章:赤い聖剣『フォルティス』

 先頭の大柄な男が、唾を飛ばして殴りかかってくる。咄嗟にシズナは床を蹴って駆け出し、ミサクと騎士の間に割って入ると、軽く拳を受け流して相手の腕を引いた。そして、ずだん! と大きな音を立てて床にひっくり返ったその鳩尾に肘を叩き込む。故郷の師匠直伝の体術は今も充分な威力を発揮し、騎士は「がはっ」と肺の中の息を吐き出して白目をむいた。 「な、なんだお前ら、やる気か!?」  先鋒があっさりといなされてしまった事に混乱した後続が、剣の柄に手をかける。 「お、本気の喧嘩か? 俺は一向に構わないぜ」 「試したい魔法の実験が出来るかなあ」 「皆さん、後先を考えなさすぎです」  イリオスがうきうきしながら拳を鳴らし、コキトは魔律晶を手にしてにやりと笑い、アティアが深々と溜息をついたが、腰に帯びていた短剣を抜き放ったあたりから、止める気は一切無いようだ。  ひっ、と宿の主人が息を呑むのを背後に聴きながら、シズナはミサクと並んで残る六人と向かい合う。  だが、一触即発の空気を打ち破ったのは、新たに宿に飛び込んできた、切羽詰まった声だった。 「ま、魔物だ! 魔物がまた来た!」
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