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第5章:赤い聖剣『フォルティス』
そのアルダは、ここにはいない。もう一度真正面から見つめ合うには、自分の足で彼の元まで辿り着くしか無いのだ。
その為にも、立ち止まってはいられない。こんな所で女々しく気を失っている場合ではない。シズナは思い切り頭を振り、頬を両手で叩いて気合いを入れると、腰に帯びた剣の柄に手をやり、一気に引き抜いた。
透明な刃が、炎の照り返しを受けて赤く輝く。膝の震えは止まった。聖剣『フォルティス』を握り締め、呼気を吐いて、シズナは正面から飛びかかってくる魔物目がけて、武器を振り抜いた。
肉を断つ感触。びくりと硬直する手応え。噴き出す血。痛みの鳴き声。全ての感覚がゆっくりと伝わり、そして、どう、と魔物の身体が地に落ちた。
一匹の命を奪ってしまえば、最早躊躇いは無かった。振り向きざま、背後に忍び寄っていた一体を切り伏せ、駆けてくる三匹を視界に映したまま、胸元の魔律晶に手を添える。
多くの魔法を使える『混合律』。この魔物は炎を操る。
『炎には水か氷、風や雷には地、闇には光。世界の魔法は相対属性を持っている』
コキトの講義を思い出し、左手を掲げて念じる。
(氷の雨だ)
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