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第6章:夢惑の森に銃声は響かない
彼の対応に構わず、ユホは波打つ黒髪を揺らして顔を上げると、拳を握り締めた両手を掲げ、憎々しげに声を荒げた。
「勇者、勇者、勇者! ことごとく我ら魔族の邪魔をしてきたにっくき血族! 獣より愚かなアナスタシアの下僕!」
そう激昂したかと思うと、次の瞬間には、激情が嘘のように笑みを閃かせて、アルダにしなだれかかり、魔王の頬に手を滑らせる。
「アナスタシアは、貴方様の世継ぎもあの娘から奪い取って、手の届かぬ場所へやってしまったとの事」
アルダの口元が引きつるのをユホは見逃さず、満足げに唇を三日月形につり上げた。
「あんな無体を働く王国の尖兵より、もっと相応しい相手が、魔王様にはおりまする。さあ、あんな娘の事などお忘れなさいませ」
そうして、唇を唇に押しつける。深い口づけを試みようとしていた女はしかし、アルダが鬱陶しげに腕を振るってはねのける事で、目的を果たせなかった。
「やめろ」
顔をしかめながら、しかし単調に魔王は吐き捨てる。
「お前は俺の祖母ユホだ。祖母にそういう事を求めてなどいない」
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