第6章:夢惑の森に銃声は響かない

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第6章:夢惑の森に銃声は響かない

 魔剣『オディウム』を手にしたあの日、魔剣から流れ込む衝動に任せるまま、魔王に相応しい残虐な光景を彼女に見せつけた。彼女はきっと、彼女の両親を手にかけた自分を憎んでいるだろう。魔剣を言い訳になど出来ない、あれは紛れも無く自分がもたらした結果だ。もしかしたら、自分の子を産んだ事さえ、汚らわしいと疎んじているかも知れない。  自分に彼女を再び抱き締める資格など無い。そう思うのは、罪の意識のせいだけではない。この、歴代の魔王が住まった城に来て知った一つの事実。それがアルダの世界を絶望で満たした。  自分には誰かを愛する権利など無い。そう思い知った。そもそも生きる資格さえあるのか、今となってはわからない。  この色が失われた呪われし生を彼女が終わらせてくれるなら、望むべくも無い。  ならば、どうか。と、アルダは願う。 (シズナ)  誰よりも愛しい少女の剣が、自分の心臓を貫く事くらい、夢想しても良いだろうか、と。 (シズナ)  その名を繰り返しながら髪をかき乱す彼の左手で、銀色の光が、静かに赤の灯を照り返していた。
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