第6章:夢惑の森に銃声は響かない

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第6章:夢惑の森に銃声は響かない

「今までは貴女の心身に負担をかけまいと黙っていたが、魔王アルゼストの名と脅威は、最早唯一王国中に広まっている」  出てきた名前に息を呑む。シズナが衝撃を受けるのを待っていたかのように一拍置いて、ミサクは言葉を続けた。 「魔物の襲撃は、セレスタに限った事ではなく、各地で増加する一方だ。この一年だけで、過去十七年間のそれを軽く上回る」  魔王が現れた途端に増えた魔物。それが誰の意図によるものか、人々が答えに至るには容易いだろう。 「知っていれば、貴女を勇者ではなく、魔王の妻として、悪しき言葉をぶつけてくる輩も増えるだろう。僕も出来るだけそういう事態からは守るつもりだが、どうか、心に留めておいてくれ」  そうして、こちらの肩を軽く叩き、騎士はシズナの脇をすり抜けて村の中へと戻ってゆく。だが、シズナは一人立ち尽くしたまま、愕然と目を見開いているしか出来なかった。  アルダ。いや、魔王アルゼスト。彼はそこまでして、アナスタシアを、人類を滅ぼしたいのだろうか。想像すれば、唇も、握り締めた手も、小刻みに震える。その震えを視界に入れれば、左薬指で輝く銀の指輪がいやでも目に映った。
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