第6章:夢惑の森に銃声は響かない

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第6章:夢惑の森に銃声は響かない

 秋へ向かうアナスタシアの平原は黄金色に染まり、アルダと走り回った故郷の草原を思い出させる。  魔物の襲撃から一週間。シズナ達は、セレスタ村を離れて、北へと向かっていた。  セレスタでは、シズナが聖剣『フォルティス』を振るって魔物を全滅させた結果、「魔物をわざと数匹逃がし、魔族の足取りを追う」という作戦を、遂行する事が出来なくなってしまった。 「まったく、考えのねえ嬢ちゃんだぜ」とイリオスがあからさまな嫌味を言って、アティアに物凄い目つきで睨まれていたが、赤い『フォルティス』がもたらしたあの衝動は、シズナにも恐怖に近い感情を抱かせた。  自分を律する事が出来なかった。ただただ、立ちはだかる者を討てば良いという気持ちに突き動かされるまま、目の前の敵を屠っていった。  あれが、聖剣が勇者に与える力だとしたら、魔剣『オディウム』にも同じ効力があるのかも知れない。それならば、あの日のアルダの豹変にも納得がゆく。そう考えた所で、『アルダは魔王なのだから、元々持っていた素質が違うのかも知れないだろう』と嘲笑う自分がいるのも否めなかった。  いずれにしろ、セレスタでの魔物の追跡に失敗した以上、この地に滞在していても仕方が無い。そんな折、ミサクが、 「魔物を追い続けるより、訪ねた方が良いだろう、という人物が一人だけいる」
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