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第6章:夢惑の森に銃声は響かない
しかし、朝が来ればミサクはいの一番に目を覚まし、てきぱきと身支度を始める。世の中にはほんの二、三時間の眠りでも充分に活動出来る人間がいるというから、彼もそういう部類なのだろうと、シズナは自分の中で勝手に納得する事にした。
やがて両脇を平原に囲まれた道は終わり、霧が立ち込める、人の手によらない道無き道へと入ってゆく。
「おんや」コキトが興味深そうに口元をつり上げて、色眼鏡の下の目を細めたようだった。「『夢惑の森』へご招待かい?」
「む……なんだって?」
「その程度の言葉も覚えられない、可哀想な脳味噌をお持ちなのですね」
「コキトの見込み通りだ。会って欲しい人物は、この森の向こうに住んでいる。ここを通るしか無い」
イリオスが眉間に皺を寄せて、アティアが恒例になった毒舌を吐く。このやりとりにも慣れてきたのか、はたまた最初から気にしていないのか、ミサクはコキトの言葉にだけ反応した。
「夢惑の森には人間を惑わす魔物がいて、入ると生きて出られないって噂だけど」
「リリスの事なら、領域を侵す道にさえ入らなければ彼女も仕掛けてくる事は無い」
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