第6章:夢惑の森に銃声は響かない

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第6章:夢惑の森に銃声は響かない

 歩きながら話している内に、一同の目の前に、鬱蒼とした森が姿を現した。無尽蔵に枝が伸び、深緑の葉が互いを覆わんとばかりに茂って、霧は一層濃さを増している。 「道は把握しているから、僕から離れないでくれ」  ミサクがそう言って先頭に立ち、シズナ、アティア、イリオス、コキトの順で森に踏み入った。  森の中は、昼なのに薄暗く、『燐光律』で灯りを作らないと、入り組んだ根に足を取られて転びそうだ。五人分の足音がやけに大きく耳に届く。どこかでギャア、ギャア、と並の鳥ではない何かが鳴く声が聴こえ、不気味さをより引き立たせている。 「こ、こういう時は歌でも歌うと明るい気分になれますかね」  無限に続きそうな霧の道と、沈黙に耐えかねたか、アティアが努めて明るい声で両手を振る。 「王都の侍女達の間で流行っている恋唄とか」 「砂糖吐きそうなほど甘ったるい歌なんか聴いて、気持ちが休まるかってんだよ」  ここぞとばかりにイリオスの反撃が来て、アティアは半眼になりながら黙り込む。そこにもう一人の突っ込みが入らなかった事を訝しみ後ろを向いて、シズナは表情を強張らせた。 「コキトは?」
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