第6章:夢惑の森に銃声は響かない

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第6章:夢惑の森に銃声は響かない

 その言葉に、ミサクがはっとして振り返り、アティアとイリオスもいがみ合いをやめて背後に気をやった。最後尾にいたはずの魔法士の姿が、いつの間にか消えている。  彼らがそれに気づくのを合図にしたかのように、ざわり、と周囲の霧が濃さを増した。更には、何かが近づいてくる気配がする。  反射的に、シズナは腰の『フォルティス』を抜いた。聖剣は今は色を帯びず、透明な刃を保っている。ミサク達も各々の武器を構えて、襲撃に備える。  窓硝子に爪を立てて引っかくような声をあげて四方八方から飛びかかってきたのは、人間の胸までほどの背丈を持つ小鬼(ゴブリン)の群れだった。魔物とはいえ知性が高く、木から伐り出した棍棒や、人間から奪った金属の剣を持って襲いかかってくる。  シズナは、背中に迫っていた一匹を、振り向きざまに斬り伏せた。ぎゃっという短い悲鳴の後、青い血を噴きながら小鬼がのけぞって地に落ちる。返す刃で右から来た棍棒持ちへ一閃。首が飛んだ。 「ミサクてめえ、何が道を知っているだ! 俺達をはめるつもりかよ!」  怒声に目をやれば、イリオスは相変わらず大剣を振り回す豪快な戦い方で、次々と小鬼を叩き伏せ、ミサクは彼の悪口に動揺する事無く、一撃一撃正確に敵の急所を撃ち抜いてゆく。  アティアは短剣で敵を牽制し、一歩下がって青緑の魔律晶を取り出して念じた。空気を叩く音に併せて光が弾け、味方に吸い込まれたかと思うと、シズナは自分の身が軽くなるのを感じた。補助魔法の『敏捷律』を使ったのだ。より早く駆け、より素早く剣を振れるようになった身体で、シズナは更に小鬼を屠った。
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