第6章:夢惑の森に銃声は響かない

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第6章:夢惑の森に銃声は響かない

 混乱する頭で必死に考え、聖剣を抜く事は諦めて、代わりに一緒にたばさんである短剣を右手で解き放つ。そして左手の蔓を切り落とし、髪に絡みついた蔓も切り落とそうとしたが、幾重にも巻きついた蔓は簡単に振りほどけそうに無い。覚悟を決めると、シズナは、結ってある根元から、金色の髪を無造作に切り払った。 『短いのも良いけれど』  アルダの明朗な声が脳裏に蘇る。 『シズナは長い方が似合ってて、可愛いな』  彼にそう言われたから、髪を伸ばし続けていた。またひとつ、アルダとの繋がりを捨ててしまった事に果てしない喪失感が胸に迫るが、ぐっと奥歯を噛み締めて感傷に耐える。  髪を捨てても、脅威はまだ終わった訳ではなかった。足に絡みついた蔓は、確実にシズナを泉へ呑み込もうと引きずり続ける。このまま泉に落ちたら溺死も免れない。何とか脱出する策を求めて再び考えを巡らせ始めたシズナの耳を、ぎゃあっと断末魔の悲鳴が刺した。  蔓の力が弱まったので、反射的に半身を起こして短剣で切りつける。蔓はあっけなく切れ、枯れ色になって力を失った。
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